
インフラマネジメントとコンサルタント
1.はじめに
今日から新年度。様々な新たなスタートがあるでしょう!皆様、新スタート頑張ってください。
私は、もう歳なのでペースを落とそうかなと思っていたところ、新たな任務が加わってしまいました。一つは、「インフラメンテナンス国民会議」の副会長という大役。そして、八潮の事故を受けた、「インフラマネジメント戦略小委員会」の開始。これも重大事項です。
群マネに関しては、様々な意見を聞く。批判的な意見を言っても仕方がない。ならばやらなければよい。マネジメントはステークホルダーにどう応えるかである。我々のステークホルダーは国民・市民である。やらないという選択肢もある。やるという選択肢もある。
インフラ・マネジメントというのは私に与えられた、天命だと諦め、老体にむち打ちます。みなさんも考えてください。
2.わたしとマネジメント
みなさんもマネジメントという言葉をよく使い、意識しているとは思う。しかし、本当に理解しているだろうか?マネジメント経験は持ち合わせているだろうか?
マネジメントというのは「管理」のことだとよく言われる。しかし、プロジェクトのマネジメントをした経験はあるだろうか?プロジェクトの実施・遂行には様々な事柄を解決しなければならない。考えて考えて実行しなければならない。
私のマネジメント経験の中で、韓国での高速道路のPFI事業は、マネジメント中のマネジメントであった。多くの関係者の調整や施工などの工程管理を実施した。カウンターパートや下請けやJVの調整、官庁との折衝、これが重要であった。
わたしは、ここに行けと言われた時、自分の管轄外であったため上司には「いやだ」と断った。海外案件であるし、海外部が行けばよいだろうと考えたからである。しかし「お前は仕事はしなくていいから、まとめてきてくれ」という上司の言葉が気に入った。「本当にまとめてくればいいんだな」ということで行った。これがマネジメントである。本音では大変だった。まずは言葉だが、私は外国語も苦手である。しかし、誰かの策略で私の英語力はすごいと言うことになっていたらしい。だけど、あまり気にしなかった。「俺は日本人だ。オレは日本語で話す。」と言って、朝から晩まで日本語で話した。まあ日本語と言っても相手が理解できるように英語や韓国語の単語は使った。通訳もつけた。語学は胆力だ!
昼飯は必ず一緒に食べに行き、夜も付き合った。場合によれば土日も付き合った。しかし、工程がどうも不安だった。工期に間に合うのか?JVの幹事会社(現代:ヒュンダイ)に確認すると「いざとなれば韓国の威信にかけて全国から人も物も集める」という。
「ケンチャナヨだな?」というとそうだと言うことになった。そしてそれは達成された。これが、マネジメントの本領だ。
この事業では、橋梁105橋、トンネル13本、延長85kmを4年で施工しなければならなかったが、それまでの経験を元にしたマネジャーとしての技術的な戦略があった。
まず、設計の妥当性などの検証では、標準設計の策定の経験が役立った。これはおそらく合理化や省力化といったインベントリーに基づく手法が理解できないと理解は無理である。数多くの物を作る時に標準化の思想は合理的である。標準設計というと馬鹿にするが、それは馬鹿にする人の技術力が標準設計以下だからである。標準化というのは実は紀元前のピラミッド建設から今日の航空機に至るまで技術的思想の基本であり、オートメーションや近年のAI技術の素もそこにある。これがわかっていない似非技術者はマネジメントからは退場していただくしかない。
さらには1人ではできない。パートナー、仲間がいないことには、プロジェクトは完成できない。そして、ある程度の実務経験は必要である。
3.富山市でのマネジメント
みなさん、私がただ、市長の求めに応じ富山市に行き、富山市のインフラを管理していただけだろうと思っているのではないかと思う。しかし、実は違う。大いなる策略があった。しかも3度断った。私個人には何のメリットもない。
(1)事前計画(赴任前)
一度引き受けたからには、必ずなんとかしなければならない。
プロジェクト・事業の実施には、まず綿密な計画が必要である。富山市に乗り込む前に、赴任までの半年ほどかけ以下を実施した。
a)データ分析(現状の把握)
橋や構造物の数、人口、予算レベル、職員の技術レベル、人間性、地理的要件、地形、地盤などの調査と分析を入手できる既存資料から行った。
b)外的要因の調査
当然プロジェクトの実行には制約条件が付きまとう。インフラ・マネジメントに対する外部の理解度や思考がかなり影響を及ぼす。そのため、市民の新たな思考に関する考え方、委託先の地元コンサルなどの技術レベル、同様に工事の請負先のレベル、国交省(地整)・県の理解度、周辺市町村の状況、市民の住民性等の聞き取り調査を実施した。
時には、県を退役した土木部長を訪ね、お話を伺った。他人には言えないような情報もいただいた。
c)過去の構造物は適正か?今後は是正できる可能性はあるか?
現在の多くの維持管理の思想では「現存する構造物は健全である」と言う仮定に基づいているが、現場を確認する限り決してそうではない。これは大きなリスクとなると感じた。
d)将来の可能性
新たな仕組みを受け入れられる土壌はあるか?職員や地元事業者・市民の意識を調査した。マネジメントにヒトは重要な要素である。力にもなってくれるが阻害要因にもなる。
e)近隣大学の調査と協働
近隣大学を訪問すると、実験設備の確認(これによって技術教育レベルがわかる)や将来協力してもらえそうな分野の確認(地質、構造試験等)ができる。さらには職員や地元業者の能力も知ることができる。
f)「橋梁マネジメント基本計画」の原案策定
維持管理の手法が変わる。この時点で「橋梁マネジメント基本計画」の原案を策定し、管理橋梁2,300橋であるため、「橋梁トリアージ計画」も策定した。これは、赴任前に自宅で策定していた。
(2)赴任直後の取り組み(発注や技術力にかかわる事項の確認と是正)
組織や仕組みを変えるには、綿密な計画と実行力が必要である。様々な手法を使い実施した。まずは課題の抽出である。
a)マネジメント・システム構築には数年かかる
橋梁マネジメント基本計画の原案は策定していたが、実際に運用するには周囲の状況などを確認し実施する必要があるため、組織改編を進めながら同時進行することにした。
b)仕様書の明確化
短期間で実施可能な発注仕様書の中身の改定を進め、職員及び事業者の意識改革を実施。資格要件などの記述を明確にした。当初反発はあったが、無視して実施した。
c)現状からの長期シミュレーション
過去に策定済みの「橋梁長寿命化計画」は全くの絵空事であったので、新たに長期シミュレーションを軸とした「マネジメント計画」の策定を急ぐこととし、現実の危機的状況を市長や財務部長等に示し、今後の方策を協議した。
(3)富山市での実施施策概要
a)組織改編
組織を「造る組織」から「守る組織」そして「持続可能な富山市」へ変えるには時間と合意が必要である。しかし、大きな意志表示になるわけである。組織を変えることによって、取り組みの意志を外部にも内部にも知らしめることが可能となる。
「建設政策課」という建設部の司令塔となるべき部署を新設し、建設部のマネジメントを行っていくことを計画。そして「道路構造保全対策課」という部署を新設し、橋梁やトンネル、擁壁、大規模のり面、シェッド、大型標識等の構造物を実際に計画・管理していく組織とした。人員も増員し現在では15名体制。
b)橋梁トリアージ(選択と集中)
「技術的仕分け」「社会的仕分け」を総合し、順位付けを行い、財政との関連において実際の維持管理を実施していく。場合によれば撤去や更新も積極的に実施することを示した。トリアージという過激な表現を意図的に示し、選択と集中の意思表示を明確にし、物議をかもすと言う戦略をとった。今まで無関心であった市議や市民、職員、マスコミなどに刺激を与える目的があった。
c)セカンド・オピニオン
点検精度等の再確認と精度アップの実施。点検精度はその後の補修等のコストに関わることを示した。これにより職員とコンサルの教育も兼ね技術力アップを目指した。
d)マネジメント・カンファレンス
学識者による検討会(第三者委員会)。第三者の意見をもらうことで、自分たちだけで決定しているのではないという事実を示し、職員の負担軽減を行う。評価をつけることで説得力を増す。
e)研究協力協定、積極的フィールド提供、補修オリンピック
新技術・新工法などの実証の場の提供。実装のための実証フィールドを富山市管理物から民間企業等に貸し出すことにより、実証の機会を積極的に設けた。民間を中心に行っているが、当初は大学・研究機関と研究協力協定を結び、成果を活用することを目指している。
最初には土木研究所と協定を結んだ。これは、これまでの経験の中で土木研究所と私の関係によるものである。その後、大学や民間企業とも締結していった。
f)職員教育「植野塾」
インハウスエンジニアの教育。考える職員、マネジメント思考等 毎月1回の実施。60回ほど実施。
4.今回のまとめ
今回は私のマネジメントの経験を記した。みなさん「マネジメント、マネジメント」と言ってはいるが、どこまで理解できているか?全然なっていない。そもそも施策が単発なのである。これでは旧日本軍である。政策を複数持って実行し悪い部分を是正していく。これがわからなければマネジメントはできない。いろんなところで書いているが、標準設計を馬鹿にしているようではマネジメントはできない。設計という一つの項目で甘んじても無理である。トータルの流れの中でいかに実行していくか?なのである。
そして、おかしな状況になったり、失敗したと思ったら軌道修正していけばよい。マネジメントとは結果を求めるものであり、途中経過の失敗や間違いはどうにでも修正できる。正解はすぐ出るわけではなく、プロジェクトの完成こそが目的である。
一方で、「群マネ」はマネジメントの一部、一つの手法である。事業のスキームをどう構築し、どう実行していくかをマネジメントしなければならない。
私が韓国に派遣されたのは、前の工事で日本人のマネジャーが韓国人を馬鹿にして反感を買い、難航したことを是正するためだったと後にわかった。結局は人なのである。人と人の信頼関係。それがマネジメントでは重要な部分である。技術力を誇ってもそれは小さなこと。マネジメントは、さまざまな経験から生まれてくる!1人ではできない。
インフラメンテナンス 総合アドバイザー
植野芳彦
PROFILE
東洋大学工学部卒。植野インフラマネジメントオフィス代表、一般社団法人国際建造物保全技術協会理事。
植野氏は、橋梁メーカーや建設コンサルタント、国土開発技術研究センターなどを経て「橋の専門家」として知られ、長年にわたって国内外で橋の建設及び維持管理に携わってこられました。現在でも国立研究開発法人 土木研究所 招聘研究員や国土交通省の各専門委員として活躍されています。
2021年4月より当社の技術顧問として、在籍しております。
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