
群マネ・・・マネジメントの一手法
1.はじめに
10月14日に、国土交通省から「群マネの手引き」が示された。
私は、国土交通省の委員会の委員であるので、今回はこれに関して可能な範囲で意見を述べる。
2.マネジメント手法としての群マネ
「群マネ」。正式名称は「地域インフラ群再生戦略マネジメント」である。私は委員会の委員でもあり、長いこと先生方と議論してきた。今回の委員会がこれまでと違うのは、モデル自治体を公募・設定し、担当委員も決め、現場視察等を行いながら実施してきているところである。これまでの先行事例等もあり、1つの「けり」として手引きを出した。今後さらにバージョンアップする予定である。開始時は包括管理に関する委員会であったが、群マネに変化していった。
こういったものが示されると、この中身に関して、必ず知ったかぶりをして「ああでもない、こうでもない」「おかしい」とか「使えない」という輩がいる。道路橋示方書でさえそうである。こういう状況は、理屈っぽいコンサルの人間に多いような気がするのだが、最近では役所にもいる。しかし、批判をしていても物事は良くはならない。被害者も出てくる。私は、かつて「標準設計」でそういう目に遭った。今更標準設計の効能を言う気はないが、よく理解できていない連中が苦情だけを伝えたため、廃盤となり私は始末書を書かされるはめになった。始末書を書くということがどういうことか、おわかりか?個人としては非常に痛手である。
非常に腹がたったが、おかげさまでしばらく冷や飯を食った。生産的でなく、そういうマイナスな意見をいう者は、自己満足だけだ。こういった決まり事や公に示したツールが使えないのは、実は使えなかったのは自分達なのだ。自己欲求を満たすために様々なことを言う前に、使い方を考えた方が良い。ただ、この標準設計の問題は、組織での意見だったので始末が悪かった。結果、日本が大きな損失をしていることにも気づかないであろう。批判したいのはこちらである。
それまでの議論の中身や経緯等はわからないのだから、示されたならば使ってみれば良い。かゆいところに手が届く程はさすがに書いてはないと思うが、これは当たり前の話である。何か事業を行うには、策略や戦略が必要である。何でも示された100%をまねればすむというものはない。多くの先生方や本省の方々は、多くの時間を使っている。
今回の委員会で驚いたのは、国土交通省の技監などのトップ幹部が委員会の最初から最後まで同席されて意見を聞き、自らの考えも述べていた。こういうことは私のこれまでの委員会の経験でもめったにないことであり、国土交通省の本気度がわかる。
3.「群マネ」の導入法と活用法
手引きが示されて、いざ自分のところでも導入しようとする自治体やそれを支援するコンサルや事業者は、どうすればよいのかということであるが、各県等を主体に説明会が開催され始めた。しかし、説明を聞いただけで出来るものでもない。
ではどうすればよいのか?とにかく考えることである。当該の市町村などにはどういう手法が良いのか?私の感覚ではあるが、自治体側のある程度の構想とその後の民間との協議が重要になる。これまでの事業とは違い、多くの方々を巻き込まなければならない。
そして、最も重要なのは、何をやりたいのかと言うことである。どのような事業をどうまとめ、どうするのか?手引きを見てもらえば様々なやり方があることがわかるので、自分の地域にあったやり方を考える必要がある。場合によれば県や周辺自治体との話し合いが必要であったり、事業者団体等との協議や説明も必要である。とにかく、主体である自治体が考えなければ事業はできない。
マニュアルや手引きというものは、決め事の例を示しているのであり、全てではない。考え方を示しているわけであるので、後は運用の仕方である。
4.「マネジメント」とは
マネジメントとはどういうことなのか?様々な考えがある。難しい教科書も出ている。正確に詳しく学ぶならば必要であろう。しかし、実践はさほど難しくはない。
私の考えでは「なんとかすること」である。「なんとかする」というのは、様々な考えや工夫をして、事業などを推進することである。これが出来なければ、マネジメントを実行する資格は無い。マネージャーはそれを実行する人である。
これまでの我が国の事業は、官庁が発注し、コンサルも含めた事業者が実施してきたが、単発的なものがほとんどであった。これまでの業務で言えば「発注者支援」ということもできなくはない。が、さらに発展し発注業務等の官庁側の仕事も代行する。
まあ、やり方にもよるので今の段階ではなんともいえないが、考えることが重要になる。これまでのままのコンサルタントでは対応できない。脱皮していく必要がある。大手コンサルや、大手シンクタンクでは、その準備と思われる対応が行われている。具体的には、官庁経験者などを中途採用したりしている。これは企業の戦略でありマネジメントである。
5.今回のまとめ
現在、霞ヶ関の「国土交通省 地域インフラ群再生戦略マネジメント実践手法検討委員会 委員」、「新技術導入に関するハンズオン支援事業検討会 委員」「下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会 実務アドバイザー」、「経済産業省 木製立体施設の技術基準検討有識者会議 委員」等を、拝命している。この中で議論されている方向性として、インフラの老朽化対策においては「新技術」と「マネジメント」で対抗していくということである。如何にマネジメントが重要かがわかる。しかし、安易に語る方は多いが、本当のマネジメントを理解できている方は少ない。地位が高いからできるか?というとそうではない。できない人、向かない人は多い。地位が高いからといって、無理にやると、周囲は大変である。マネジメントを行うには、精神面も重要であるし、様々な経験が重要である。できれば修羅場の経験が必要である。
マネジメントの基本は「標準化」である。これは他分野を見ても明らかである。申し訳ないが、これすら理解できない者がマネジメントできるわけがない。我々は今後、多くの物(構造物)を一気に管理していかなければならない。「データが重要」とかよく聞くが、そのデータとは何なのか?少し的外れのデータではないか?肝心の構造物群のデータ分析ができていない。それを実施し、構築してきたのが標準化であった。そこが理解できていない。その程度の技術者に維持管理を語ることはできない。1件設計をして、喜んでいても、それはそれである。八潮の事故に端を発した委員会も先月で1月から9回実施され収束した。ここで最後の提言として、今後はこの事故を契機に、インフラ全般の管理の方針として、「新技術」の活用と「マネジメント」が重要だという結論に達している。特に「マネジメント」の部分は、重たい課題である。しかし、ある意味、やっとそこまで来たかと私は感じている。
10年程前に富山市に赴任し、橋梁等の維持管理を任された際に「富山市橋梁マネジメント基本計画」というものを示した。これは、当時皆さん方が「長寿命化計画」というさも立派な物をありがたがって作っていた時であったので、反発もあったが私の方針としてそうした。10年経って果たして長寿命化は出来たのか?予防保全は出来たのか?経営的に考えても10年経っても出来ない事は方針を改めなければ、企業としては重大な損失を招く。これと一緒で、出来ないもの、不可能なものは是正しなければならない。それがマネジメントである。未だに「長寿命化」「予防保全」と言っているのには笑ってしまうが、逆に危うさを感じる。
マネジメントは、戦略を立てて物事に当たること。意思表示も戦術も重要である。多くの方が難しい理論を語りたがるが、私は一実務者として、マネジメントとは「なんとかすること」マネジメントは実行してなんぼである。
インフラメンテナンス 総合アドバイザー
植野芳彦
PROFILE
東洋大学工学部卒。植野インフラマネジメントオフィス代表、一般社団法人国際建造物保全技術協会理事。
植野氏は、橋梁メーカーや建設コンサルタント、国土開発技術研究センターなどを経て「橋の専門家」として知られ、長年にわたって国内外で橋の建設及び維持管理に携わってこられました。現在でも国立研究開発法人 土木研究所 招聘研究員や国土交通省の各専門委員として活躍されています。
2021年4月より当社の技術顧問として、在籍しております。
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