植野が斬る!

馬鹿と鋏は使いよう!

1.はじめに

今回は、コンサル時代(1回目)について 書く。

水門メーカーを半年で辞め、某コンサルからお迎えが来た。自動設計システムやCADシステム開発の経歴に興味を持ったらしい。この会社は橋梁設計の大手として知られており、建設省の自動設計プログラムの開発と保守を受託しており、自動設計プログラムを保有していた。これを担当する部門に迎えられた。

2.リスタートは31歳

最初に配属された部署は、「応用システム部」。
部長と課長以外は年下で、いきなり、いろんなことを相談されて面食らった。そんな中、プログラムが、うまく動かないときのメンテナンスや機能アップ時に「仕様書を出せ」と言ったら、社員から「仕様書って何ですか?」と言われ、唖然とした。「エッ!?この人たち素人?」

このころは、自動設計のシステムも解析系プログラムも、大型計算機を使っていた。カードにデータをパンチし、流して1度流すのに結構な時間を要した。社内のいろんなものが流れているので、1日1回流せればよい時代だった。大体多くの人間は夜、帰宅前にデータを放り込んで帰り、翌朝できているかどうかだ。
プログラムの開発・改良を行うためには、何度も流して確認する必要がある。しかし、基本的には、電算室の受付順になってしまう。いかにして、有利に行うか?考えたが、電算室のオペレーターを手なずけることにした。弁当や飲み物を差し入れた。飲みにも行った。これにより、1日に流す回数は他の社員よりも格段に増加した。
その後、社内の設計業務のスピードアップと効率化のため、大型計算機のシステムをダウンサイジングし「EWS」(エンジニアリングワークステーション)にコンバートを行った。言語はフォトランから、C言語に変えなければならなかったが、世の中には天才的な奴が居る。少し変わった奴だったが、こいつはすごかった。常駐の協力会社の人間で「宇宙人」と言われていた。誰が何を頼んでもマイペースで絶対に残業はしない。なかなか、やってくれないと有名だったが、なぜか、私の注文は、すぐやってくれた。
「Aさん、図化がおかしいんだけど。」「こんな機能追加できないかな?」というと、驚くべきスピードで対応してくれた。翌朝「植野さんやっといたよ。確認して」というので確認するとできている。この人は、飲み会にも来ないので、時々、愚痴を聞いてやっただけなのだが。

3.ソフトと人(技術者)

よく、「ソフトでやった。」と言う。内心これには「ウンザリ」する。
うんざりというよりも、腹が立つ。中身を本当にわかって使っているのか?ソフトとはなんなのか?これが、世の中の実情かとあきれてしまう。

そして、若者の行列が私の机の前にできることが多々。「こういうのは図面をどう起こすんですか?」「この橋の概略工費がすぐほしいんですが?」などと言ってくる。「お前たちの上司に聞け。」と言うと、上司がわからなく、「植野に聞けと言っている。」とのこと。呆れた。それで若手社員には人気があった。

自動設計は、社内の処理にも使われていた。
自分で入力して、処理をするのが基本だが、厄介な案件は回ってきた。うまく処理できないものも回ってきて、中身を精査し回答をするのだが、最も厄介なのは、「入力ミス」である。適切な入力データが入力されずに、処理が止まったり、おかしな結果になるものが実に多い。時々、担当どおしで言い合いになる。

すると、相手方の捨て台詞は毎回「使えない!」これはシステムに失礼である。私の見立てでは良く見ても80%は入力データミスである。

マニュアルを見ても理解できていないのである。そういう時は冷静になって入力データを見直すことである。思うように動かなければ入力データを疑うべきなのだ。

この、「冷静に入力データを見直す」と言う作業は地味で根気がいる。これができない者もいる。

4.若気のいたり

しかし、日本のコンサルの実情が見え、うんざりした。
他の役員や社員は逆に私のことが疎ましかっただろう。創業者の方々とは、同じメーカー出身と言うことで気が合ったが、2代目になると、おかしな方向に行き始めた。
ある会議で、民間の仕事を取ってこいと命じられたので、某自動車メーカーのナビゲーションシステムのデータ更新業務の話をつけた。通常で年間5億円、大改定時は十数億円をかけると言う。そのデータ整備業務だったが、話を持って行くとリスクがどうのとか誰がやるかでもめた。

会議で、「決めてくれ」と言うと、役員が、「お前はやる気が有るのか?」と言うから、「ちょっと待ってくれ。今回の仕事は民間の仕事を持ってこいと言うから、持ってきたものだ。いやだったら断ればよい。やる気があるか?と言うのはこっちのセリフだ。馬鹿らしく出てられない。」と言って席を立って退席した。若気の至りではある。
すると、役員連中からはひんしゅくを買ったが、若手から尊敬された。こういうことをやっていると企業は衰退する。そして個人は悪者にされる。会社にしがみつく気は毛頭ないので、次を考え出した。
馬鹿と鋏は使いよう!
だが、私のようなものは使う側は使いづらいだろう。いや制御困難である。

インフラメンテナンス 総合アドバイザー

植野芳彦

PROFILE

東洋大学工学部卒。植野インフラマネジメントオフィス代表、一般社団法人国際建造物保全技術協会理事。
植野氏は、橋梁メーカーや建設コンサルタント、国土開発技術研究センターなどを経て「橋の専門家」として知られ、長年にわたって国内外で橋の建設及び維持管理に携わってこられました。現在でも国立研究開発法人 土木研究所 招聘研究員や国土交通省の各専門委員として活躍されています。
2021年4月より当社の技術顧問として、在籍しております。